「若者とソーシャル・メディア」(その1)@IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)

「若者とソーシャル・メディア」について国際メディア・コミュニケーション学会で発表をしました。何故日本の若者は、アメリカ発のツイッターやフェイスブックと、日本発のラインなど、複数のソーシャルメディアを利用するのか?「高コンテクスト文化」と「低コンテクスト文化」の概念を用いて、現在のツイッターとラインの人気について報告をしました。今回はツイッターについてお話します。

IAMCR 2013 Conference Dublin, 25-29 June 2013

 

高コンテクストと低コンテクスト文化

現在のようにインターネットが普及する前1970年代に、アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホール(1976)が提示した「高コンテクスト文化」と「低コンテクスト文化」の概念は、現在でも異文化コミュニケーションや社会言語学、ビジネスなど多くの分野で言及されています。コミュニケーション研究の分野において、Littlejohn(2009, pp. 278-279)は以下のようにまとめています。

 

高コンテクスト文化では、メッセージによって意図される内容は状況に大きく依存する。話し手の関係や信念や価値観、文化的規範によって規定される。…高テクスト文化は通常、率直さや直接さではなく、相手の感情を害することを避けるために、丁寧さや非言語的コミュニケーション、非直接的なフレーズが好まれる。個人よりも集団を強調し、集団に依存することが奨励される傾向がある。会話におけるメッセージは、多様な解釈が可能なあいまいなものである。…一方、低コンテクスト文化では、メッセージは意味を明快に表現するために注意深く選ばれる。…低コンテクスト文化では、集団よりも個人に高い価値が置かれがちである。

 

アメリカは低コンテクスト文化であり、その対極の最も高コンテクストに位置するのが日本と言われています。今回と次回では日本で急速に普及しているツイッターとLineを例に取り、日本人のコミュニケーションとコンテクストから考えていきたいと思います。

 

ツイッターと高コンテクスト文化

低コンテクスト文化の代表であるアメリカ生まれのツイッターは、テクストメッセージと同じ140字という限られた文字の中で表現する事をユーザーに求めています。

 

木村忠正氏は、ツイッターはケータイメールやMixiのようにすぐに返信する義務がなく、140字という限られた文字数は、「空気をよむ圧力が強い日本社会では、気遣う余地がないメディアであるとの認識は、ケータイメールと対比されることでプラスに働く」(木村, 2012, p.206)と述べています。

 

私がインタビューした若者たちの多くは2009年当時にはMixiを主に使っていたのですが、2013年現在では「ミクシィ疲れ」から、ミクシィのアカウントはそのままにしているものの、実際のコミュニケーション空間はツイッターなどへ移行しました。

 

津田大介氏は日本でのツイッター人気の理由の一つとして「『ゆるい』つながりと空気感」(2009, p.40)をあげています。

 

ミクシィの『マイミク』のように、ユーザーの相互承認を前提とするサービスでは、現実の人間関係のしがらみに足を取られてしまうことも少なくない。…こうしたSNSは、濃密な関係を築ける一方で、リアルの人間関係が足かせになり、拘束感の強い、閉じたものになってしまう側面もある。(津田, 2009, pp.40-41)。

 

アメリカ生まれのツイッターは、その特徴として、オープンなコミュニケーション空間があげられます。ツイッター上では、1対多のコミュニケーションによって様々な人とつながることが可能となります。しかし高コンテクスト文化の日本では、文化的コンテクストとコミュニケーションの違いから、思わぬトラブルを引き起こすことがあります。

 

私がインタビューをした男子大学生は、フォロアーが1000人以上いますが、ツイッター上で思ったことをつぶやいて、炎上した経験が幾度かあります。字数制限があり、コンテクストを共有できない、不特定多数の読み手の解釈によって、メッセージが批判され、炎上することがあると説明してくれました。

 

これまでフェイスブック登場以前、日本におけるオンラインコミュニケーションは匿名が大半でした。フェイスブック登場以来、インターネット上でも、実名やステータスを出して、コミュニケーションが行われるようになりました。コンテクストに大きく依存し、年齢やステータスなど、話し手の関係が重視される日本の社会では、若者がダイレクトな表現で自分の意見をいうことに対して、丁寧さが欠けると憤慨し、批判をする人もいます。なぜなら、高コンテクスト文化では、相手の感情を害さないように、丁寧さや非言語的コミュニケーション、非直接的な表現が好まれるからです。

 

自分のフォロアーしか読まないと思い、閉ざされたウチの中でのコミュニケーションの感覚で、仲間ウチでの会話(例えば、飲酒やカンニング、無賃乗車、悪口など)を不用意にツイッターでつぶやいたことが、知らない人にリツイートされ、突然ソトの世界からの侵入者たちに批判され、炎上したりすることがあります。そして過去の発言などからネット上の他のソーシャルメディアで身元を特定され、時には退学や解雇など実社会において社会的制裁を受けることがあります。

 

フェイスブックやツイッターでソトの世界と積極的につながる若者たちがいる一方で、多くの若者たちは再びより安全な閉じられたウチの中でコミュニケーションを行えるようなラインへなど新たな日本発のソーシャルメディアを頻繁に利用しています。

 

次回は、ラインの人気の理由については述べたいと思います。

 

注釈

1.Takahashi, T. “Japanese Youth and Social Media”. 2013 Conference of the International Association for Media and Communication Research (IAMCR), Dublin, Ireland, June 2013.

 

参考文献

Hall, E. T. (1976) Beyond Culture (New York: Anchor books).

木村忠正(2012)「デジタル・ネイティブの時代」、平凡社新書。

Steinfatt T. M. (2009) ‘High-context and low-context communication’ in S. W. Littlejohn and K. Foss (eds) Encyclopedia of Communication Theory (Thousand Oaks, CA: Sage), pp. 278-279.

津田大介(2009)「Twitter社会論」、洋泉社。

About Toshie Takahashi

Toshie Takahashi is Professor in the School of Culture, Media and Society, as well as the Institute for Al and Robotics,Waseda University, Tokyo. She was the former faculty Associate at the Harvard Berkman Klein Center for Internet & Society. She has held visiting appointments at the University of Oxford and the University of Cambridge as well as Columbia University. She conducts cross-cultural and trans-disciplinary research on the social impact of robots as well as the potential of AI for Social Good. 【早稲田大学文学学術院教授。元ハーバード大学バークマンクライン研究所ファカルティ・アソシエイト。現在、人工知能の社会的インパクトやロボットの利活用などについて、ハーバード大学やケンブリッジ大学と国際共同研究を行っている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会テクノロジー諮問委員会委員。】
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