「若者とソーシャル・メディア」(その2)@IAMCR(国際メディア・コミュニケーション学会)

「若者とソーシャル・メディア」について国際メディア・コミュニケーション学会で発表をしました。何故日本の若者は、アメリカ発のツイッターやフェイスブックと、日本発のラインなど、複数のソーシャルメディアを利用するのか?「高コンテクスト文化」と「低コンテクスト文化」の概念を用いて、現在のツイッターとラインの人気について報告をしました。今回はラインの人気についてお話します。

IAMCR 2013 Conference Dublin, 25-29 June 2013

Line人気の3つの理由

前回、フェイスブックやツイッターでソトの世界と積極的につながる若者たちがいる一方で、多くの若者たちは再びより安全な閉じられたウチの中でコミュニケーションを行えるようなラインなど新たな日本発のソーシャルメディアを頻繁に利用していると述べました。しかしLineの既読機能によって、Mixi同様に「ライン疲れ」を訴える人もいます。にもかかわらず、現在ラインが隆盛を極めている理由には次の3つがあると思います。1.無料。2.閉じたコミュニケーション空間。3.スタンプによる感情の共有。それでは実際に例を用いて説明しましょう。

 

19才の女子大生アイさんは、33のグループに属し、そのうちの10グループと絶えずラインでメッセージを送り合っています。既読機能があるため、メッセージを開けてしまうと、すぐに返信しなければならないというプレッシャーを感じています。そのため、文字や絵文字だけではなく、簡単に感情の共有を可能にするスタンプなどを用いて、友だちと絶え間なくつながっています。このようなコミュニケーション行動は一見すると、シェリー・タークル氏(2011)が批判しているように、コミュニケーションをとっているのではなく、単につながりのみを求めているようにも考えられます。しかしながら、Line上では、即座に交換される短いメッセージにもかかわらず、メッセージや絵文字、スタンプを用いて、相手に対する気遣いや思いやりを伝え、その瞬間瞬間の感情を共有しているように思われます。アイさんは、実際にスマートフォン上にある2つのLine上のメッセージの意味を次のように説明してくれました。

左上の写真は、スタンプやテキストを交えて伝えたい感情を強調している例です。ユリカさんが「ダンスの発表会があるからこれから頑張る」というメッセージを送りました。するとすぐに、まずリサさんがミニーマウスのスタンプを送り、「いいね。いいね」という気持ちを伝えます。そして、その後に、「ゆりからびゅ♡(ユリカ、ラブ。ハート)」とメッセージを送ります。サキさんは、「がんばっててててて!!!(連打、強調)」とメッセージを送り、ケンタッキーのスタンプを添えて、キラキラしたイメージを伝えています。

 

左下の写真はスタンプのみのコミュニケーションの例です。Line上でメッセージの絶え間ないやり取りによって、授業中に携帯電話がバイブし続けたことから、友だちの一人が「うるさい!」とメッセージを送りました。それに対して、「ごめんね。ごめんね。」とメッセージを送るとともに、「許してね」という気持ちを手紙に託したくまのスタンプが送られています。 写真の一番右上です。そして、ロード・オブ・ザ・リングに登場するホビットのスタンプを送り、「OK!」という非言語的コミュニケーションを用いて、「大丈夫、許すよ」という気持ちを伝えます。別の友だちも豆しばのスタンプを送り、怒られて、悲しい気持ちを表しています。これらのメッセージは全て12時16分、ほぼ同時に送信されています。

この2つの例は、若者たちがメッセージや、絵文字、スタンプを使いながら、絶え間なくつながり、コミュニケーションを行なっている様子を表しています。写真にある日本のスタンプは、日本のコミュニケーションに好まれる丁寧さや謙虚さを、西欧のスタンプは追加料金がかかるために特別さや、また楽しさをメッセージに付け加えています。

 

Lineとウチ

Mixi上では複数の異なる仲間ウチが皆同じようにマイミクとしてひとつのウチとなってしまい、結局何も書けなくなるという「Mixi疲れ」について言及しました(Takahashi, 2010)。その後、Mixiはグループ化出来るようにアフォーダンスを変えましたが、若者たちはMixi上ですでに固定されてしまったウチを再構築することよりも、フェイスブックやTwitterという新たなソーシャルメディアへ移動していきました。しかしながら、アメリカ発のオープンなソーシャルメディアは、ソトとの新たなつながりを可能とする一方で、閉じた「ウチ」を再構築するには向いていません。そのため、Lineという日本発の新たなソーシャルメディアを用いて、従来のウチを再構築するとともに、新たに出会った人々と次々と新しいグループを創っています。Line上に数多く作られたグループの中には、単なる「群れ」で終わるものもあれば、感情の共有と絶え間ないつながりによって「ウチ」が創発するものもあります

 

このように、Lineでは、コンテクストを共有し、限られた短い言葉では言い表せない些細な表現を、絵文字やスタンプなどイメージによる非言語的で、非直接的なコミュニケーションを用いて表しています。そしてグループごとに、閉じたコミュニケーション空間の中で、リアルタイムな集団内コミュニケーションを行なっています。日本の文化的な文脈において、集団内の密なコミュニケーションによる頻繁なつながりと、かわいい文化に代表されるようなコンフリクトを避けた価値の共有により、仲間ウチの中で感情の共有を大切にしているように思われます。

 

注釈

1.Takahashi, T. “Japanese Youth and Social Media”. 2013 Conference of the International Association for Media and Communication Research (IAMCR), Dublin, Ireland, June 2013.

2.中根千枝 (1967) 『タテ社会の人間関係-単一社会の理論-』、講談社現代新書参照。

 

参考文献

Takahashi, T. (2010) ‘MySpace or Mixi? Japanese Engagement with SNS (Social Networking Sites) in the Global Age’, New Media and Society, 12 (3), 453-475.

Turkle, S. (2011) Alone Together: Why We Expect More from Technology and Less from Each Other (New York: Basic Books).

 

About Toshie Takahashi

Toshie Takahashi is Professor in the School of Culture, Media and Society, as well as the Institute for Al and Robotics,Waseda University, Tokyo. She was the former faculty Associate at the Harvard Berkman Klein Center for Internet & Society. She has held visiting appointments at the University of Oxford and the University of Cambridge as well as Columbia University. She conducts cross-cultural and trans-disciplinary research on the social impact of robots as well as the potential of AI for Social Good. 【早稲田大学文学学術院教授。元ハーバード大学バークマンクライン研究所ファカルティ・アソシエイト。現在、人工知能の社会的インパクトやロボットの利活用などについて、ハーバード大学やケンブリッジ大学と国際共同研究を行っている。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会テクノロジー諮問委員会委員。】
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